桜井広大(PL学園)の真実(その1)。Gちょっとsへの挑戦状。

阪神タイガース桜井広大という、未完の大器がいる。
一軍に定着できなかったのは、本人の実力だったと思う。突き抜けない、
壁に跳ね返されてきたのは、本人が本気になったかどうかだけだと、
感じるファンは多い。

入団時、彼のフリーバッティングを見た、当時の**二軍監督はその将来性に
ほれ込んだ。室戸で行われた二軍キャンプは彼の話題が燎原の火のように広がった。
当時の様子を書く

一陽来復氏のレポートを引用し、桜井広大へのエールとしたい。同級生、今江敏晃千葉ロッテマリーンズ)、や中村剛也埼玉西武ライオンズ)に追いつけるかどうか?


五回、左中間へタイムリ二塁打を放った阪神・桜井。
今季初の猛打賞だ(撮影・伊藤奈々)【フォト】

 (セ・リーグ阪神7−1広島、9回戦、阪神6勝3敗、14日、甲子園)初夏の聖地で、サクラが満開や!阪神桜井広大外野手(25)が「6番」起用に応え、1年9カ月ぶりの猛打賞の活躍。打線がつながり、12安打の猛攻で、広島に快勝した。真弓監督が期待する大砲が、目覚めの大暴れ。虎を上昇ロードへ導く。(サンスポWEB)より


Textby/一陽来復(いちよう・らいふく)(02年02月2日・室戸)


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第1回 新井亮司とミスタールーキー桜井広大

ルーキー桜井広大出現!

 新井が突然、声をかけてきた。2月2日室戸キャンプ2日目の昼の休憩時間に少し顔を合わしたときだ。
「桜井のことばかり、褒めていたでしょう」「いや、そんなことはないよ。たまたま、知り合いのファンが話かけてきて、ウンウン!うなずいただけですよ」
新井はさらに突っ込んできた。
「ボクの入団のときと、桜井とどっちが上ですか」
「そりゃ」と少し間を置いて、
「桜井ちゃうかな!」といわざるを得ない。
 キャンプ2日目とはいえ、桜井は平塚ファーム打撃コーチが投げるゆるいトスにも体をつっこまずに、きれいにネットにティーを打ちこんでいた。それを見た目利きのファンのMさんが「うまいこと、ゆるい球でもティーしとるやろ。新人としてはうまいよ。ワシら感覚的なもんしかよういわんけどな」と言っていたのが、ネット越しの新井の耳に入ったらしい。
 新井は2002年1月の鳴尾浜での自主トレから、新人の入団をチェックしていた。当然である。2年目の昨年、無邪気に「ボクは濱中さんのようにファームで四番を打って、チームの勝利に貢献したい」と意気込で臨んだシーズンだった。しかし新人・梶原康司(九州東海大)の入団によって、その目論みが見事にはずれた。そして、奈落の底に落とされたような落ち込みを経験していた。
「だけど…」
 私はためらいながら「新井君の教育リーグでの北神戸での、あのホームラン見てしまったからな」と言った。
「あれ、見てたんですか」と新井の表情が輝く。
「ウン、見た。オリックス開幕投手候補の小林から打った左中間のホームラン、新人の高校生とは思えない当りやった」
 一昨年の3月25日サーパス神戸戦、北神戸のあじさいスタジアム、球場開きの試合で左中間にライナーで放りこんだ当りで、タイガースの新井は長打力がある新人高校生のイメージが定着しかかった。
 小林が開幕への調整登板でストライクを取りにきた2球目ストレートを放りこんだ素質はタイガース待望の右の大砲候補にふさわしかった。
 冒頭の桜井(PL学園・4巡目)は2年で夏の甲子園に出場している。3年生時は不祥事で対外試合禁止になり、チャンスをのがしていたが「あのPLでもまれてるからな」と言ってしまった。
 新井は新人が合同自主トレで入寮したとき、鳴尾浜の室内練習場で桜井、藤原の存在を気にしていた。
「桜井は背は大きくないでしょう。藤原さん(立命大・6巡目)は長距離砲といわれてきたけど、去年の梶原さんもそうだったでしょう」と私にさぐりを入れていた。そこには、飛ばすことにかけては、負けないという自負が込められていた。

室戸キャンプが始まる

 ファームが春季キャンプをする室戸の広域運動公園野球場は絶景の室戸岬展望台の少し西の山間部を切り開いて造られた。「2002年よさこい国体」会場のひとつになる球場だけに、両翼100メートル、センター122メートルで、ファウルグラウンドもたっぷり確保された立派な球場である。昨年は未整備で芝生のつきも悪かったが、今年はサブグランドの土も整備され、投内連係などの練習にも支障はない。また、ブルペンも一塁側に新設された。
 2002年2月1日、ものすごい**監督人気でマスコミは安芸に集結していた。しかし、今年も室戸はマスコミは少なく、閑散としファンもちらほらの中、キャンプ初日を迎えた。
 アップの指示を出す中山トレーニングコーチの声と選手の掛け声が響くだけ。特別大きな声というのではない。静かなスタートだった。昨年は初日、前日の雨で体育館でアップ。室内でのフリー打撃で、**ファーム監督がいきなり、根本相手に投げて、チームを引き締めていた。
 キャンプ初日を終わって報道陣に一、二軍の人選を問われると「これは、振り分けや。一軍より力ある選手もおる」と今岡や坪井や八木などを念頭に置いてか、**ファーム監督が少し語気を強めて語ったところに、昨年のチーム事情の複雑さを垣間見たものだ。
 しかし、今年は何度も島野ヘッドコーチはじめコーチ会議で打ち合わせしての一、二軍の人選だった。しかも紅白戦では、常にファーム選手にもチャンスを与えるシステムが採用されるということで、チームの一体感がでていた。
 プロ入り初めてのアップ中に新人・喜田(福岡大・7巡目)が足をひきづって、不名誉なリタイアをした。
 しかし、新人の桜井は元気にアップを終え、ベースランニングやペッパーをこなした後、フリー打撃を迎えた。
 今年1月11日、私は桜井を初めて近くで見た。背は180ぐらいだが、肩幅がひろく鋭い目つきに「さすがPLでもまれたワルだけある、迫力ある」と、思ったものだ。また、目の前で見たティー打撃がとても高校生出身とは思えないフォローの大きなスイングだったので、印象に残った。その横では早稲田出身の東(9巡目)がティーを打っていた。

室戸キャンプに藤田平さんが

 2月17日、室戸も安芸と同じようにアップのころから雨が降り、メニューの前倒しが行われ、午後は室内打撃場と鳥籠ケージでの特守メニューが行われていた。
 全体練習が終わり桜井が通路のロッカー代わりのベンチに座りため息をつき、右手のテーピングを気にしていた。横には新井もいた。さらに、自主練習を促すように**ファーム打撃コーチが桜井に言う。
「桜井! オレはお前に何と言った」
桜井はちょっと考えこむ。
**ファーム打撃コーチは畳みかけるように、「タイガースの四番打とうと思ったら、人の倍打ってちょうどいい。人が100練習したら200練習しろ!」
「桜井! 夜も来いよ!」有無を言わさぬ迫力で新井にも聞こえよがしに言い放った。しかし、桜井はくぐもったあいさつだけで、アンダーシャツの着替えを始めた。横の新井も着替え始めた。新井はいつのまにか、コーチ連中から「ブッチャー」と呼ばれている。
「K1行こうかな」と格闘技選手のようなマッチョな身体を見せ冗談をいっていた。私は格闘技には少しうるさいので(見るだけやけど)、「その筋肉は格闘技の筋肉とは違う。痛みや関節技には、ボディービルダー型の筋肉は向かんと思うけど…」というと、新井は「マウント取られ殴られたら痛いやろな」とあっさり「じゃ辞めます」と言った。
 その前に少しだけ桜井に取材を試みた。「藤田平さんに、どんなアドバイス受けたんですか」
「下半身の使い方、体重移動などいろいろです」とハッと息をのみ、打撃練習で詰まらされた右手を隠すようにバットスイングの構えをして見せた。
 実は17日、私は鳥籠ケージでの内野特守の練習を見ていて気づかなかったのだが、あの2000本安打の藤田平元監督が立ち寄っていた。室戸の室内打撃場は一塁側のプレハブで2打席あり、鳴尾浜の室内練習場と広さがほぼ同じだ。そこで、ティーをする桜井に藤田平さんが**ファーム監督、長嶋、**両打撃コーチを交えて、桜井に個人指導していたのだ。藤田平さんは田淵、**、鈴木啓志など団塊世代の英雄であり、私ら同世代人ファンにとっては雲上人だ。だが、監督としては、方法論で大きなつまずきをしたことは否めない。その藤田平さんが、突然、記者も連れずに、**ファーム監督激励と桜井視察。助言。私が鳥籠ケージの練習が終わり室内練習場の戸を開けたときの緊張した空気は、藤田平さんの助言が終わるときだったが、見てはいけないものを見た気がして、すぐその場から離れた。
 また、**打撃コーチが現れ、「新井はどうする!」と言うと新井は「スクワットやります」と言う。
「アホ! そんなんやるんやったら、バット振れ!」と言ったが、新井は聞き流した。ケージでのスナップスローの特守でヒザが笑い、悪戦苦闘だったのが、頭にあったのかもしれない。だが、私は心の中でつぶやいた。(「ウエートの重いもの背負わないでやった方がいいんじゃないかな」)。
 桜井も「肩まわりちょっとほぐしたいんで、すこしやります」とバーベルをあげる仕草を**打撃コーチに示した。
 新井と桜井はキャンプ初日からフリー打撃の組が一緒だった。
 マシーン2台が設置された室戸の広い球場で二人のフリー打撃が始まった。桜井は最初こそマシーンのスピードにタイミング合わなかったようだが、慣れてくると大きな当りをするようになった。横で打つ新井はそれを意識して、力んで詰まらせるシーンもしばしだった。125スイングで25本の柵越え。新井を少し上回った。その後の居残り特打では、さすがにバテたようで、詰まった当りが多くなったが、報道陣に囲まれた**ファーム監督は「あれはもって生まれたもんやな。遠くへ飛ばすのは、新井と打ち方は違うけどな。桜井はうまく運ぶ。金属バットやったのに、すでに木(のバット)にも対応しとる」と賛辞。「ティーバッティングからちょっと違う。楽しみやな!」と語り高校生出身では、新庄剛志ジャイアンツ注MLB)入団時より上の評価を下した。
 翌日、一面というわけにはいかないが、桜井の長打力は囲み記事で紹介された。背筋力272キロがダテじゃないことを証明することになった。もっとも新井の背筋力は300キロある。石原コンディショニング担当からは、「もう、大きな筋肉はいらん。ボディービルダーになるなよ」といわれており、新井に必要な筋肉は関節周りのインナーマッスルといわれる小さな筋肉。また初動負荷理論の小山裕史(ワールドウイング主宰)さんがいう「どんなに強い背筋や胸筋があっても、肩、腕が柔らかく動かなければしなやかなスイングはできないのです」という、ことに必要な筋肉。新井がこのことをどの程度理解しているかはまだ、わからない。