ボクシングをガールフレンドに語るなかれ!


ボクシングを始めたころのモハメッド・アリ

四十三十数年前、フライ級の世界チャンピオンに大場政夫という選手がいた。
やさ男でとてもボクシングをやるような風貌には見えなかったが、強気の
気性が彼の持ち味で、「左が世界を制する」という言葉を忠実に実行しうる
技術を身につけていた。タイの強豪ベルクレック・チェルバンチャイを13RにKOして、
フライ級のチャンピオンになったころ、私のボクシング熱はさらに増していた。

昨夜パッキャオがスーパーライト級のハットンに豪快な左フックを放ったとき、
その倒れ方の衝撃はゲストの香川照之氏(俳優)をして、石のこぶしことデュランが、
ハーンズにKO負けした衝撃を思い出させたという話を語り、私はその話から連想ゲームのように、ミドル級のハグラーがハーンズを左フック一発の衝撃で窮地に陥れたシーンを思い描いていた。

さらに、日本ボクシング協会会長の原田氏が記憶が定かであれば、敵地豪州で、
J・ファメションと3階級制覇をかけて対戦し3度のダウンを奪ったにもかかわらず、
ホームタウンデビジョンのために、3階級制覇できなかった。それでも、日本人ボクサーでファイティング原田氏の伝説を越えるボクサーは出ていない。

フライ級でポーン・キングピッチを11R終了でKOし、黄金のバンタムと言われた、
ブラジルの英雄を2度に渡り打ち合いの末負かした。ボクシングファンなら、このブラジルのバンタム級チャンピオンがエデル・ジョフレであり、8度防衛して、すべてKO勝ちだったことを覚えているはずだ。もちろん、若いいまのボクシングファン知らない。

その原田氏をして、日本でのJ・ファメションとの再戦では、
若さに圧倒され、13ラウンドにリング外に弾き飛ばされるダウンで、引退への道を歩んだ。

そう、若さは武器であり、若さは油断の象徴であり、若さに用心深さと勢いが備われば、確かに、歴史は動く。

キャシアス・クレイ(モハメッド・アリと後にブラックモスリムに入り改名)が21歳でヘビー級のチャンピオンになったとき、チャンピオンは誰だったか、思い出して見よ! 2度もヘビー級のチャンプとなったフロイド・パターソンを赤子の手をひねるように倒した、熊と恐れられたソニー・リストンだった。しかし、21歳のクレイは、持ち前のフットワークとスピードでリストンを圧倒し、7R終了で熊の戦意を喪失させた。作戦通りに「蝶のように舞、蜂のように刺す」を実践したのだ。さらにリマッチでは、凄かった。1R半ばに蝶のように舞ったクレイは、右ストレートをリストンのテンプル(こまかみ)に見舞い、ワンパンチで決着をつけてしまったのだ。


私がWOWOW開局三周年記念の『モハメッド・アリ』スペシャルをビデオに撮り、それを宝物として、繰り返し見るのは、アリを通じて、ボクシングの歴史を知りさらに世界史をも語り、さらにアメリカ史を語る、物語の事実性に圧倒的な説得力を感じるからだ。しかも、ボクシングは人生そのものを語る。

大場政夫はチャチャイ・チオノイと5度目のタイトルマッチを迎えたとき、1ラウンドに2度もフライ級チャンピオンになったことのある、強打のベテランにいきなり右フックを浴び、よろけた。さらに、スロースターターの大場は、チャチャイの決定的な右のフックを浴び、痛烈なダウンをした。しかも、ダウンしたときに、右足首を捻挫するという不幸が襲った。

しかし、負けん気の強い大場は右足首の痛みをこらえて、反撃をしだした。12Rをむかえたときには、勝てるかもしれないという雰囲気を作り、勇敢に攻め出した。
チャチャイは今度は右パンチは警戒されるので、左のロングフックで仕留めるチャンスをうかがっていた。しかし、大場は手数で圧倒し出した。連打で2度のダウンを奪い、3度目の連打でチャチャイが背を向けかけたときに、レフリーは止めた。
大場の5度目の防衛が実現した瞬間は、誰もが、原田氏の再来を期待した。事実、大場はバンタム級への転向も考えられていた。長身で身体がフライ級としては、大きかった。

原田氏に継ぐ2階級制覇の伝説が誕生しうるボクサーだったのだ。しかし、当時のバンタム級のメキシコチャンプは、ルーベン・オリバレスというタフネスで強打のファイターで、勝てるという保証はなかった。だが大場ならボクサーファイターとして華麗なフットワークから左のリードブローから、巧みにリーチを活かしたワン・ツゥーを放って、強打を封じ込めたかもしれない、という期待を抱かせたものだった。

ところが、数ヵ月後、私より二つほど年下の23歳の大場は、チャンプの夢のひとつのシボレー・カマロを手に入れたが、首都高速道路で事故を起こし、即死するという、信じられないことを起こした。私はテレビのニュースが信じられなかった。そこで、当時のガールフレンドに大場がいかに優れたボクサーであり、またこの事故が悲劇だったかを熱く語り、ボクシングのロマンはこの事故でさらに人生そのものを語ることを、喋った。しかし、ゆめ、男は女に軽々しくボクシングを語るべきではない。


私は辰吉丈一郎のファンだ、辰吉の生き様に惚れる。無骨だが、自分が現役を続けたい意志をいまも、実行している。

昨年3月号の『ボクシングマガジン』の薬師寺との対談は秀逸だった。辰吉は薬師寺に負けたが、負けてなお、辰吉の名声は光輝いた。
なぜか、辰吉は息子がボクシングしたいと言い出したので、一緒にロードワークをやっていることを、さらっと語っているのだ。そう、ジョギングではない。ボクシングのフットワークを磨くための基礎練習だ。少々の雨でもやっていると書かれていた。薬師寺は驚き、自分は辰吉を得て輝いたことを告白していた。タレントとして事業家としての成功は薬師寺かもしれない。しかし、辰吉はタイで試合をするなどで、チャンプへの返り咲きを狙ったいる。確かに、現実は厳しい。日本での練習は思い通りにできない、日本コミッショナーの制度では任意引退扱いだ。

それでもやる。辰吉夫人だから、この生活が維持できるのだろう。辰吉はタレント性もあり、テレビ局に狙われた時期もあった。しかし、ここまで頑固だと、解説ぐらいしか、扱えない。

私のような辰吉ファンはホプキンスのように四十過ぎてもチャンプに返り咲くかもしれない、夢に生き様に人生を重ね合わせて、惚れる。

斯様にボクシングは男を不可解の淵に導く。

ミリオンダラー・ベイビー』(クリント・イーストウッド)の映画をビデオで大切にしているゆえんでもある。

WOWOWのボクシング番組の女性アナウンサーが四月から代わった。女性の優秀なボクシングライターやトレーナーや選手がいることは認めるが、ボクシングの深みを軽々しく扱ってほしくない。女性タレントがでてくる傾向が強いが、ショーアップの方向性が私には気にくわない。

解説までするメディアもある。まぁ、好きにやってくれ!

昨今の粗製濫造気味のチャンプは、つまらん。視聴率至上主義が必ずしも、ボクシングの魅力を伝えないことは明白だ。盛り上げる試合は、方向がくるったアンテナの演出過剰ではできない。

長谷川穂積のタイトルマッチがリアルタイムで中継されないのが、何を物語っているのか、だ。彼の出自が問題だというのなら、不幸なことだ。彼のスピードと技術はチャンプになりえい凄みを増し、最近の3つの防衛戦はたったの5ラウンドしか戦っていない。8度防衛。バンタム級というクラスの裾野の広さを考えたとき、その記録がどれほど、日本ボクシング界に衝撃の成績であるのかを、メディアはきっちりと伝える責任がある。(5日追加記入)

ボクシングの話をし出すと、私は止まらない。自分の人生の年数のほとんどを、ボクシングの歴史になぞって、語りたいのだ。

もっとうまく、書いていたつもりなのに、操作を間違えたのか、重要な私の日記のほとんどはアップを失敗した。一度ゆるめたタガを戻すのはむづかしい。私は後悔しながら、うまく書けない気分をひきづって、5日に行く予定だった、相模原の大凧揚げ見物を諦めた。天候が雨模様だからだ。(5日追記)

ああっ!